スウェーデン便り
Talk with ANNA  教えてスウェーデン!
THE JOURNAL OF DENTAL HYGIENIST 1999年1月号

加藤 典(スウエーデンデンタルセンター・歯科衛生士) with Anna Rena

加 藤:はじめまして、私は東京のスウェーデンデンタルセンターの歯科衛生士、加藤典です。

アンナ:こんにちは、アンナ・レナです。私は1998の1月、スウェーデンの企業に勤務している夫の転勤に伴い、日本にやってきました。現在は、こちらスウェーデンデンタルセンターで、弘岡先生をはじめ、加藤さんたちのお手伝いをしています。

加 藤:アンナはここにくるまでにスウェーデンでは10年間、デンタルナースとして働いていたと聞いたけれど、どんなところで働いていたの?

アンナ:一般開業医や病院などいろいろなところで働いてきました。1997年に結婚後も仕事を続け、そして、昨年、日本へやってきました。

加 藤:こちらの医院に来られるようになったきっかけはどういうことだったの?

アンナ:日本でもスウェーデンとまったく同じシステムで診療を行っているクリニックがあるとスウェーデンの知人から聞き、お願いすることにしました。

加 藤:そうだったの、スウェーデンと日本の歯科医療システムでは似たようなところもあるんじゃないかと思うんだけど、例えばスウェーデンでは、スタッフにどんな職種の人たちがいるのかしら?来月は、スウェーデンのスタッフのことについて話を聞かせてね。


THE JOURNAL OF DENTAL HYGIENIST 1999年2月号

加 藤:アンナ、今日はスウェーデンのスタッフのことについて教えて欲しいの。スウェーデンの歯科医院では、普通どんな人たちが働いているのかしら。歯科医、歯科技工士、歯科衛生士、デンタルナースの人たちがいるの?

アンナ:必ずしもそうとは限らないわ。医院の規模にもよるし、歯科医とアシスタントだけの医院もあるわよ。

加 藤:そうなの。ところで、教育システムについてはどうなのかしら。アンナのようにデンタルナースになりたい人は、どうずればいいの?

アンナ:まずデンタルナースのための学校に通います。スウェーデン国内にあるデンタルナースのための学校は、全て国営です。

加 藤:へえー、みんな国で運営しているの。日本では民間の学校が多いわよ。そこで普通、何年くらい勉強するの?

アンナ:私が卒業した時には2年制でした。

加 藤:そうなんだ。日本の歯科衛生士学校も今は2年制だけど、3年制になるという話があるのよ。歯科衛 生士になりたい場合も同じ?

アンナ:そうね。ただスウェーデンの歯科衛生士は、スケーリング・ルートプレーニング時に麻酔もうつことができるし、希望すれば独立することも可能なの。

加 藤:へえー、そうなの。さすが元祖歯科衛生士の国ね!


THE JOURNAL OF DENTAL HYGIENIST 1999年3月号

加 藤:今日は、スウェーデンの歯科診療システムのことについて教えてくれるかしら? 日本では大学病院、矯正歯科、一般開業医などの区分はあるけれど、専門医制度というのはないの。スウェーデンでは、どのようなシステムになっているの?

アンナ:スウェーデンの場合、歯科医師は、専門医とGP(general practitioner 一般開業医)の2種類に分かれます。GPは、一般的な歯科診療を行いますが、より専門的な内容の歯科診療は、それぞれの専門医が携わります。スウェーデンでは、矯正、歯周病、小児、口腔外科など7つの分野の専門医がいて、GPと連携して診療を行っています。

加 藤:へえー。歯科医の住み分けがされているのね。そういえば、アメリカも同じようなシステムだけれどスウェーデンはアメリカと違って国がバックアップしているところが違うのね。

アンナ:スウェーデンには、公的な診療所と民間の診療所がありますが、民間の診療所は公的なものに比べ少ないです。私たちの国の子供たちは、20歳まではみな公的な診療所に通います。診療は無料で行われます。

加 藤:さすがだわ。診療が無料なんて! 大人もそうなの?

アンナ:大人は無料とはいきませんが、保険でまかなわれるので治療費は安いですよ。

加 藤:へえー、そうなの。次回は保険制度のことについて教えてね。


THE JOURNAL OF DENTAL HYGIENIST 1999年4月号

加 藤:アンナ、今日はスウェーデンの歯科保険制度について教えてくれる? スウェーデンといえば、社会福祉が充実しているイメージがあるけれど、歯科については、実際のところはどうなのかしら?

アンナ:スウェーデンでは1999年1月、歯科医療制度の改正がありました。私たちの国では、早い時期から予防に力を入れた結果、歯科疾患は確実に減ってきました。ですが、福祉の充実は、イコール高い税金。いいことばかりじゃないのよ。近年の国家財政の逼迫などで、歯科に多くの予算を組めなくなったことも事実なの。そこで、今回の給付金の改正となったわけです。

加 藤:そうなの。例えば、どんなところが変わったの?

アンナ:子供・若者は無料で歯科治療が受けられますが、定期検診については、20歳から29歳までは一部の補助金が与えられ、30歳以上は全額自己負担となりました。また大きな改正としては、歯科医、歯科衛生士自らが治療費を決定できるようになったことです。つまり価格は各自で異なるわけですから、治療費の自由価格競争となります。

加 藤:それは大変! 同じ治療でも値段が違ってくることもあるわけね。

アンナ:現段階では、まだ各歯科医や歯科衛生士が歯科の適正価格を探っている状態だと思います。私も今後の行方に注目しています。


THE JOURNAL OF DENTAL HYGIENIST 1999年5月号

加 藤:アンナ、今日はスウェーデンの子どもたちの歯科事情について教えてくれる? 日本では、まだまだ子どもの虫歯が多いんだけど、スウェーデンではどうなのかしら? 子どもたちに対してはどんな取り組みがされているの?

アンナ:スウェーデンでは、子どもの時から虫歯予防についてきちんと教育します。まず3歳の時に歯科健診に呼ばれます。これは子どもを歯科に慣れさせるためでもあるんです。その後、小、中学生は毎年リコールされ、健診に呼ばれます。先月もお話ししたように、20歳までは無料で定期健診を受けることができます。健診の時は、医院へ出かけて、最低30分はチェックを受けます。その時、虫歯が見つかれば治療を受け、再びリコールの期間を決定します。また、虫歯が見つからなかった子どもも毎年リコールされてチェックを受けます。

加 藤:ええっ! 日本では、健診は学校で受けるわよ。時間も30分も取らないわ。

アンナ:虫歯予防といえば、昔はフッソ洗口が一般的な方法でしたが、フッ素の有効性は、回数であることがわかり、フッ素入りの歯磨き粉を使って予防することが一般的になりました。現在では、カリエスフリーの子どもたちがほとんどです。

加 藤:私たちの国では、まだまだだわ。私たちも頑張らなくっちゃね。


THE JOURNAL OF DENTAL HYGIENIST 1999年6月号

加 藤:今日はスウェーデンの女性と仕事のことについて聞かせてくれるかしら。日本では結婚や出産後、仕事を続けていくことがまだまだ難しくて、やめていく女性が多いんだけど、スウェーデンではどのようなシステムになっているのかしら。

アンナ:スウェーデンの女性は、結婚や出産後も多くの女性が仕事を続けることを望み、自分のキャリアを追求します。ただ私は、出産後は子供と一緒に過ごしたいので、しばらくは家にいたいと思っています。

加 藤:出産後に仕事に戻ることは難しくないの?

アンナ:スウェーデンでは、法律により1年間、家族の中の誰かが産休を取ることが認められています。つまり1年は子育てに専念できるわけです。また、両親が安心して働くことができるように、保育所等の保育施設も整備されています。何より「仕事に戻ることは法的な権利」とされています。もし雇用主が産休後の就業を認めなかったらそれは法律違反となるわけです。

加 藤:うーん。さすが、スウェーデン! 進んでいるのね。でもその間の生活費はどうなるの?

アンナ:産休中の給料は国から支払われます。支給額を3回に分けて3年間でもらうこともできます。

加 藤:なるほど。国から支給してもらえるのね。これなら経済的にも安心。本当にうらやましい限りだわ。


THE JOURNAL OF DENTAL HYGIENIST 1999年7月号

加 藤:今回も前回に続いて、スウェーデンの女性と仕事のことについて教えてくれるかしら。スウェーデンでは、結婚をしないで同棲しているカップルも多いと聞いたんだけど、本当なの?

アンナ:スウェーデンでは、サンボゥ(同棲)カップルも多いわよ。サンボゥは結婚と同じように社会的に認められた存在で、法的にもほぼ同じ権利を持っているの。教会で挙式して披露宴をするのが結婚。その前に相手を見極めるテスト期間としてサンボゥをするカップルもとても多いんです。サンボゥのままのカップルも3割ほどいるそう。

加 藤:へえー、日本とはずいぶんちがうわ。

アンナ:私たちの国では、結婚しているカップルもサンボゥのカップルも、ともに働き、ともに家事をするというスタイルが一般的です。

加 藤:でも子どもが生まれたら、いろいろと大変じゃない? 法律的に1年間、家族の中の誰かが産休がとれると言っても・・・。例えば、私が産休を取ったら、その間医院はどうなるの?

アンナ:そうね、その場合、あなたが休んでいる間、院長は、他の誰かを雇わなくてはいけないわ。それはあなたの権利なの。それから復帰したとき、あなたは、自分の勤務形態を決める権利もあるのよ。

加 藤:うーん。労働者の権利がしっかり守られている感じ。すごいなぁ。


THE JOURNAL OF DENTAL HYGIENIST 1999年8月号

加 藤:おめでとう! アンナ、お子さんが生まれたんだって。

アンナ:ありがとう。1999年3月に男の子が生まれました。名前は、Alexander Charlesと言います。今は、忙しくて毎日、てんてこまいよ。

加 藤:本当によかったわね。これからますます大変だと思うけれど、頑張ってね。ところで、前回、スウェーデンでは、子どもが生まれて産休を取っている間、院長は他の誰かを雇わなくてはならないって聞いたけれど、その間にポジションを奪われてしまうなんてことはないの? ちょっと心配じゃない?

アンナ:産休で休む時、雇用主である院長はその間、パートを探すことがあります。仮に1年後に復帰するという場合、パートの使用期間は1年契約となります。ですからポジションがなくなるということはありません。

加 藤:それなら一安心。

アンナ:お隣の国、デンマークでも産休前のポストが保証されると聞きました。

加 藤:北欧って産休中、その後の保証も含め、福祉が充実していて、本当にうらやましいわ。

アンナ:でもね、若い世代からは「税金が高すぎる! 政府がケアしすぎ」という声もあるの。そうは言っても、女性にとってはありがたい気がするけれどね。

加 藤:いいな、やっぱり私はうらやましいわ。


THE JOURNAL OF DENTAL HYGIENIST 1999年9月号

加 藤:スウェーデンの日常生活では、ともに働き、ともに家事をするスタイルが一般的だと聞いたけれど、実際のところ、本当に男性も家事や育児に参加しているの? 日本ではまだまだ育児は母親が中心、職場は男性が中心というところが多い気がするけれど…。

アンナ:確かにスウェーデンでも、そうした傾向が全くないわけではありません。1974年に成立した育児休暇制度の期間は全長450日に及びますが、男性が育児休暇を取ることが少ないことが問題とされてきました。

加 藤:そうよね、なかなか難しいと思うわ。

アンナ:そこで、政府は母親と役割を交代して育児に携わる父親がいつまでも少ないのに業を煮やし、非常手段として育児休暇の法律改正へ踏み切ったのです。

加 藤:それはどんな改正?

アンナ:全長450日のうち、30日間を父親専用とするものです。つまり父親が休まなければ権利放棄となってしまうわけです。でも、必ずしも1日単位で計算する必要はなくて、例えば、午前と午後が交代したり、半日にとどめることも認められます。つまり、半日とすれば休暇時間は2倍に、1/4休暇で2時間短縮して6時間勤務とすれば、休暇日数が4倍に変わります。それを子どもが8歳に達するまでに消化すれぱ良いのです。

加 藤:そうした柔軟な姿勢がいいわよね。


THE JOURNAL OF DENTAL HYGIENIST 1999年10月号

加 藤:スウェーデンも、平均寿命が高い国として有名よね。

アンナ:確かにね。スウェーデンの平均寿命は1995年現在、男性76.5歳、女性81.5歳と日本に次いで世界2位です。

加 藤:スウェーデンのお年寄りはどういう風に暮らしているの?

アンナ:以前は、親子同居が一般的だったけれど、今ではすっかり姿を消し、高齢世帯といえば単身か老夫婦だけと変わりました。

加 藤:スウェーデンでは、過疎化の問題なんてないの?

アンナ:スウェーデンでも、以前は都市部に集まるのは若い世代、地方や過疎地に残るのは老齢層と考えられてきました。でも、各自治体の高齢者分布を住民統計に基づいて割り出してみると、全体として地域ごとの格差が極端には開いておらず、高齢者が全国に分散して住んでいるようです。

加 藤:裏を返せば、高齢者に暮らしやすい環境が至るところで整えられているというわけね。

アンナ:スウェーデンでは、1914年に世界初の国民年金を導入しました。当初は少額の年金でしたが、1940年代には、暮らせる年金へと成熟しました。つまり公的年金の制度化が、昔から重くのしかかっていた老親扶養の責任を軽減させ、ようやく自分の仕事と育児に専念できる生活を若い人にもたらしたのです。

加 藤:なるほど、そうした背景があったわけね。


THE JOURNAL OF DENTAL HYGIENIST 1999年11月号

加 藤:今まで話を聞いてきて感じるのは、スウェーデンは、本当に女性にやさしい国だってことね。

アンナ:私たちの国では、大臣のポストは5割、国会議員の4割、知事の5割、地方議員の4割は女性です。こうした要職につくということは、いわば女性自身が積極的に社会や生活について発言し、進路や方法を決める立場にあることを証明していると思います。

加 藤:そう、女性が政策に関わるようになれば、女性にとって不利なことは少なくなると思うわ。結局、今、日本で問題になっている高齢化、少子化だって表裏一体の問題なのよね。

アンナ:性別を問わず十分に働けるだけの労働条件を整え、安心して子育てができるような社会や環境が提供されれば子どもはそう簡単には減りません。それは私たちの国の取り組みで証明されたんだと思います。

加 藤:子どもが減らなければ、高齢化にプレーキがかかるわけよね。高齢者のための対策はもちろん大切だけど、高齢者を支える若い人たちがどんどん少なくなっている現状は、もっと対策が考えられなくちゃならないと思うわ。

アンナ:日本のみなさんも、もっと政治や社会の動きに敏感になったほうがいいと思います。スウェーデン人は、厳しいですよー。国の動きを監視する目が……。

加 藤:そうよね、私たちも、うらやましがってばかりいたらダメよね。発言して変えていかなきゃ。


THE JOURNAL OF DENTAL HYGIENIST 1999年12月号

加 藤:スウェーデンのことをいろいろ教えてくれてありがとう。スウェーデンの歯科事情や、社会のこと、働く女性のことなど勉強になったわ。

アンナ:私も、日本とスウェーデンの違いを考える良いきっかけになりました。スウェーデンの歯科衛生士と日本の歯科衛生士では、確かに異なるところがあります。例えば、スウェーデンでは、日本と違い、スケーリング・ルートプレーニング時に局所麻酔が使用できますし、本人が希望すれば独立も可能です。

加 藤:でも、独立できると言っても簡単なことではないんでしょうね。

アンナ:もちろん!! 独立できるだけの患者さんがついていなくては話になりませんし、それだけの技術が必要です。歯科衛生士が行うスケーリング・ルートプレーニングの的確さにより、治癒結果が左右されるわけですから、文献を読むことなども含め、常に科学的な思考をする訓練が必要です。厳しいことを言うようですが、ただ漫然と仕事をしても技術は上がらないのです。

加 藤:1999年6月にスウェーデンで勉強させていただいたのですが、歯科衛生士のプロ意識の高さが印象的でした。彼女たちは、歯科衛生士という職業に誇りを持っていて、技術レベルも大変高かったのですが、やはりアンナが言うように、それだけの努力をしているからなのよね。本当にありがとう、アンナ。


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